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それなのに副社長は、
「……美菜」
何故か私の名前を、まるで声を振り絞るようにして苦しげに紡ぐと、切ない声音を響かせた。
途端に、得体のしれない切なさに襲われた気がして、なんだか胸が苦しくなってくる。
次の瞬間には、そんな私の心情を察したような絶妙なタイミングで、副社長に強く抱きしめられていて。
私を強く抱きしめた副社長が、
「仕事のようにはウマくいかないな」
ボソッと呟くように零した小さな声が、だだっ広い部屋の静けさに吸い込まれて虚しく消え去ってしまった。
……副社長は、どうやら、思い通りにいかない自分のアレのことを嘆いてしまっているらしい。
それを分かっていても、私には、どうすることもできない訳で。
せめて、副社長の背中にそっと腕を伸ばして抱きしめていることしかできなくて……。
そんな私の耳には、何を思ったのか副社長の口から出た、
「美菜は、俺の名前は知ってるんだよな?」
そんな脈絡のない言葉が、突然流れ込んできた。
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