それぞれの思惑~前編~

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そんな私に、木村先輩は、 「どう? 秘書室での仕事。……やっぱり大変そう?」 優しく微笑みながらも、元気がないように見えてしまったらしい私の様子を窺ってくる。 どうやら、急に異動になってしまった私のことを心配して気遣ってくれているようだ。 なんとか、これ以上心配を掛けないように、 「いえいえ。まだ異動したばかりなんで、雑用しかしてないですし……。全然、大変じゃないですよっ! はいっ!」 ピシッと姿勢を正して、元気よく応えれば……。 「ハハッ、そっか。なら良かった」 優しい木村先輩は、まるで自分のことのようにホッと安心したように笑ってからそう言って。 ニカッといつものように八重歯を覗かせると、買い物袋の中からコーヒーの蓋付きカップを取り出してストローを突き刺すとゆっくり口に運んでいる。 そんな木村先輩に倣うようにして、私も自分の野菜ジュースのパックのストローを咥え一口啜ってから、フウと一息ついて、パックジュースをベンチに置いた、ちょうどその瞬時(とき)だった。 「美菜ちゃん」 「は、はいっ!」 不意に、木村先輩に呼ばれた私が驚ながらも元気よく返事を返せば、 「ふう」 と息を吐き出した先輩が何やら神妙な表情に変わったのは。
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