それぞれの思惑~前編~

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「俺なんかじゃ頼りになんないかもしれないけどさぁ……。これでも、美菜ちゃんよりは少しだけ先輩なんだし。俺の前では、そんな風に無理しなくていいから。 ……本当は、なんかあったんじゃない?」 木村先輩に、思いもよらなかった優しい言葉を掛けられて、不意打ちを食らってしまった私は、言葉を失ってしまい。 自分の膝に視線を固定した状態で、ただジッとしていることしかできなくなってしまった。 「ごめん。困らせるつもりはないんだ。言いたくないなら言わなくていいし。……ただ、なんか無理して笑ってるように見えちゃってさぁ」 それでも、変わらず優しく気遣ってくれる木村先輩に、これ以上迷惑を掛ける訳にもいかなくて、なんとか気を取り直して、 「……急な異動だったから、ちょっと色々疲れちゃってるかもです」 へへって何でもない風を装って笑ったつもりだったのに……。 私の頬をツーッと生ぬるいモノが流れ落ちていく感触がして。 どうやら、ここ最近、色んなことがあったせいで、心の整理が追い付いていなかったようで……。 不意に食らってしまった木村先輩の優しさに、知らず知らずのうちに積もり積もっていた色々なモノが溢れて止まらなくなってしまった私は、泣いてしまっているようだった。 「……えっ、ちょっ、美菜ちゃん? 大丈夫?」 直後、木村先輩のあわてふためいた声が聞こえてきて。 気づけば、木村先輩の腕に抱かれて、一頻(ひとしき)り泣いてしまう羽目になってしまっていた。
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