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なんとなく声を掛けるのを躊躇いつつも、
「……き、木村先輩、苦しいです」
あんまり強く抱きしめられちゃったもんだから、苦しくなってきて遠慮気味に訴えれば……。
「……あっ、ごめん、ごめん。なんか美菜ちゃんが泣いてるの見ちゃったら、昔飼ってた猫のこと思い出しちゃって……。懐かしくなっちゃって、つい」
さっきの私と同じように、漸く我に返ったのだろう木村先輩がアタフタと慌てて、腕に閉じ込めてた私のことを、そそくさと解放して。
「ハハハッ」
なんて軽く笑い飛ばすようにして、いつものような軽い口調で少し早口気味にしゃべり始めた木村先輩。
……以前、夏目さんにも同じようなことを言われちゃったような気がする。
どうやら私は、何故だか知らないが、小動物的扱いをされてしまうらしい。
……なんだぁ、びっくりしちゃったじゃないか。
まぁ、でも、そんなことだろうとは思ったんだ。
さっきは、急に『離したくない』なんて言って抱きしめられて驚いちゃったけど……。
いつもの明るい木村先輩に戻ってくれて、ホッとした私は、
「美菜ちゃん。急な異動で大変だろうけど、たまにはストレス発散させないとダメだよ? あっ、そうだ。今夜は帰りにカラオケでも行ってパーッと発散する?」
トレードマークの八重歯を覗かせながら、人好きのする優しい笑顔で提案してくる木村先輩に、
「はいっ! 喜んでっ!」
いつものように元気よく答えていた。
そんな私たちの間に割り込むようにして、背中越しにデジャブのようにガチャリとドアが開く音がして。
その音とほぼほぼ同時に、
「綾瀬美菜っ! 秘書室から離れるときはスマホは肌身離さず持っておけと言わなかったか?」
すかしたインテリ銀縁メガネ仕様の夏目さんの、超絶不機嫌そうな苛立った声が辺りに響き渡った。
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