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その声に驚いて、隣の木村先輩と私とが揃ってビクッと肩を跳ね上がらせてから同時、入り口の方へ恐る恐る振り返ると……。
入口のドアを開け放った夏目さんは、ここまで走って来たのか、荒い息を落ち着かせるために肩を上下させて、深呼吸を繰り返してるように見える。
そんなに慌ててどうしたのだろかと静かに見守っていると……。
「何度電話を掛けても応答がないと思えば……。思った通りか」
少し距離も離れているし、弾む息を抑えながらしゃべってるせいもあってか、ハッキリとは聞こえてはこないけれど、ブツブツと呟くように言った後。
「まあいい。綾瀬、今度から休憩時間が終わる十分前には自分のデスクで待機しておくように。分かったか?」
いくぶん呼吸が整ってきたのだろう夏目さんが、仕事用の落ち着き払った冷たい声で、有無を言わせないキツメの口調で言い放ってきて。
……なんだぁ、そんなことかぁ……。
大した用事じゃなかったことにホッとした私が、
「はい、分かりました」
素直に従えば、満足したような表情の夏目さんが、すかさず指示を出してくる。
「悪いが、副社長にお出しするチョコを貰ってきてくれないか?」
それに返事を返そうとした私よりも早く、
「それなら、もう店舗に戻るんで、俺が行きますよ」
気を利かせたんであろう木村先輩が先に応えてくれていた。
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