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そしたら、どういう訳か、さっきよりも不機嫌そうな険しい表情に変わった夏目さんが、
「いや、結構だ。綾瀬、何してる? 聞こえてるならさっさと動けっ」
鋭い口調でピシャリと跳ね返すようにして放ったもんだから……。
「は、はいっ! すぐに」
そう言って、ベンチから立ち上がって向かおうとしたら、何故だか、隣の木村先輩に腕を引っ張って制されてしまい。
「いいから」
私にだけ聞こえるような小さな声で言われて、どうしたものかと思っていると。
「それって、そんなに急がなきゃいけないことですか?
いつも落ち着き払って冷静な夏目さんが、そんなことくらいでそんなに慌てるなんて、驚きました。そんなに綾瀬さんと俺が一緒に居るのが気に食わないんですか?」
いつも明るくてちょっとチャラくて軽い調子の木村先輩が、今まで聞いたこともないような刺々しい口調で、今まで見たこともないような険しい表情をして。
あのすかしたインテリ銀縁メガネ仕様のおっかない夏目さんと対峙している。
夏目さんと木村先輩の視線とがちょうど交わるところで、まるで火花でも散ってるような、そんな錯覚までしてしまうほどに……。
どういう訳か、緊迫してしまったこのよく分からない理解しがたい状況に、どうしたものかと、益々頭がこんがらがってきて分からなくなってくる。
一体全体どうなってしまうのだろうと、二人に置き去り状態の私は、オロオロとしていることしかできないでいた。
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