それぞれの思惑~前編~

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暫くの間、置いてきぼり状態の私なんか蚊帳(かや)の外で、火花を散らしながら無言の攻防戦を繰り広げていた二人。 その沈黙を破ったのは、木村先輩から突き付けられた言葉への応酬を放つ、夏目さんなのだけれど……。 きっと夏目さんは、秘書の仕事に不慣れで、しかも言われたことも守れない私への厳しい教育的指導をしただけのこと、だったんだろうと思う。 だから別に、木村先輩が言ってたような意味なんてなかった筈だ。 一方の木村先輩は、後輩思いで優しいから、急に秘書室に異動になっちゃって、さっき泣いてしまってた私のことを心配しての言葉だったに違いない。 最後に言った言葉は、気を利かせて言った自分の言葉を夏目さんに無下にされてしまったせいで、カチンときてしまって。 そのせいで、ちょっとおかしな言い方になってしまったんだろうと思う。 なんとか二人の誤解を解きたくて、そのためには、どうしたらいいかと考えあぐねていると。 さっきまでの緊迫した空気はどこへやら……。 場の雰囲気を打ち消すように「コホン」と咳払いをした夏目さん。 ヤレヤレって感じで、トレードマークの銀縁メガネをクイッと指で正しながら、フウとワザとらしく息を吐き出した夏目さんが至極落ち着き払った様子で、ホトホト呆れ果てたっていうような声でことの経緯を説明し始めた。
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