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「いったい、何を誤解しているか知らないが……。私はただ、急な来客にチョコをお出ししなければならないため急いでいるだけだ。
ウチのチョコが是非食べたいと言うお客様のご要望にお応えするためであって、君の言ったような他意などない。重役に仕える秘書たる者、どんなことにも迅速に対応しなければいけないからな。
それを……研修中とはいえ、綾瀬にも秘書としての自覚を持って貰いたかっただけだ。緊急時には、私の代わりに動いて貰わなければならないからな。
そういう訳で、部外者である君の手を煩わせることはできないと思い、結構だと言ったまでだ」
すかしたインテリ銀縁メガネ風に、実に長々と並べたてた夏目さんは、木村先輩の出方を見るべく、銀縁メガネの奥の切れ長の瞳を鋭く光らせている。
夏目さんの普段の優しい気さくなお兄さんのような姿を知ってる私でも、ビビッてしまいそうなほどの物凄い気迫だ。
とてもじゃないけど、反論なんてしようなんて馬鹿なことを思う人は、世界広しといえど、誰一人いないんじゃないだろうか。
そう思っていた私の耳に、
「本当に、それだけなんですか?」
眼光鋭い夏目さんに対して、少しも臆することなく、発せられた木村先輩の揺るぎない声が聞こえてきた。
……皆さんすみません。どうやらここに一人だけ、いらっしゃったようです。
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