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すかしたインテリ銀縁メガネ仕様の夏目さんによって、説き伏せられてしまった木村先輩の横顔に、ゆっくりと視線を向けてみれば……。
とても悔しそうな表情をしていて、奥歯を強く噛み締めているように見えるし。
木村先輩の太腿の横で強く握られた拳も、プルプルと震えているように見える。
そんな木村先輩の隣で、私がどうすることもできずに立ち尽くしていると。
いつものように、トレードマークの八重歯を覗かせて、優しい笑顔を浮かべた木村先輩が、
「美菜ちゃん、ごめんね? 俺、なんか勘違いして、余計なことしちゃったみたいだね?」
「あ、いえ、とんでもない」
「もう休憩時間終わっちゃうし。俺、仕事に戻るね? じゃあ、仕事終わったらいつもの場所で待ってて?」
「はい、分かりました」
優しく声を掛けてくれて、それに応えた私の言葉を聞いてから、
ベンチに置いたままだった買い物袋にゴミをまとめると、入り口のドアへと向けて駆けて行ってしまった。
そして、出入り口で私たちの動向を見守るようにして立っている夏目さんのところまで行くと。
何故か夏目さんの正面で向き合うようにして立ち止まって、深々と頭を下げた木村先輩。
「さっきは出過ぎたことを言ってしまい、すみませんでした」
「いや。分かってもらえて良かった」
二人の会話を聞きつつ、なんとか事なきを得たようで、ホッと胸を撫で下ろしていると。
「……けど俺、納得した訳じゃありませんから。失礼します」
頭を上げた木村先輩が夏目さんを見据えて、言い逃げるようにして声を放つと、もう一度ペコリと軽く頭を下げてから、今度こそ振り返ることなく屋上から出て行ってしまった。
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