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「あのさぁ、美菜ちゃんって、前に聞いた時は彼氏いないって言ってたけど……。今はどうなの?」
「――へ!?」
まさか、そんなことを聞かれるとは思ってもみなかった私は、至極間抜けな声を発してしまった。
……のだけれど、すぐに、頭の中には、副社長の麗しいお顔が浮かんできてしまい。
――副社長との契約のこととか、アレのことや、なんやかんやのことを知られてしまっては大変だ。
――なんとかボロを出してしまわないように、極力余計なことは言わないようにしなければ。
そう思った私は、当たり障りのないように慎重に言葉を選びながら答えた。
「今も、彼氏なんていませんよ? ……でも、気になってるというか、好きな人はいます」
『好きな人がいる』と言ったのは、念のため、副社長の契約通り、事が順調に運んだことも想定してのことで。
それに、副社長や木村先輩に『何かあったんじゃないか』と簡単に見破られてしまった私は、どうやら分かりやすいようなので、本当のことを言った方がいいんじゃないかと思ってのことだった。
最近は、私に自分のことを好きにさせようと、あの手この手で攻めてくるせいで、傍若無人さはずいぶんと鳴りを潜めていて、優しさ全開の副社長。
けれど、あの副社長のことだ。
……アレが旨くいってしまえば、私の気持ちなんてお構いなしに、とんとん拍子に事を運んでしまいかねない。
そう思ったから保険の意味もあった。
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