それぞれの思惑~後編~

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木村先輩が、一体何を根拠にそんなことを思ったのかは知らないけれど……。 そんなこと言い当てられたからって、正直に言える訳がない。 「もう、どうしちゃったんですかぁ?  さっきから。そんな訳ないじゃないですか。全然違いますから」 さっきから続く木村先輩の追及にホトホト堪りかねていたせいか、なんとか至って普通に返すことができてホッとしたのも束の間。 この夜私は、木村先輩の言葉によって、知らなくてもいい余計なことを知る羽目になるのだった。 「そっか、ごめんね? 変なこと聞いちゃって」 「いえ」 漸く、納得してくれた様子の木村先輩の言葉にホッとした私が、テーブルの中央にある新しいおしぼりに手を伸ばしていて、 「あれ、首のとこ赤くなってるよ?」 木村先輩にそう言われても。 シフォン素材の襟元が少し緩いリボンブラウスを着ていると言っても、自分では見える位置でないため確認しようがないのだけれど。 きっと虫刺されか何かだろうと、さほど気にもとめなかったのだが……。 私は、この時、忘れてしまっていたのだ。 副社長に一緒に帰らない旨を伝えた時、急に抱き寄せられて、首のあたりに顔を埋められた瞬間、チリッとした痛みが走って、初めて味わう感覚に、なんだろうと思い聞いた時、 「虫よけみたいなものだ。気にするな」 副社長にそう言われたことを。 まさかその時に、キスマークを付けられていたなんて思いもしなかったし。 ましてや、それを見た木村先輩が、怪訝そうな表情をしていたことなんて、私には知る由もなかったのだ。
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