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♪゜・*:.。. .。.:*・♪
「じゃあ、また明日。おやすみー!」
「はい。おやすみなさい」
なんとか元気を装うことができていただろうか……。
そんな自信なんてない。
副社長の元カノのことを聞いてしまった私は、ストレス解消どころではなかった。
あの後、木村先輩が何を喋っていたかも、何を歌っていたかも、何一つと言っても大袈裟じゃないくらい、何も思い出すことなんかできない。
平日で明日も仕事だということで、時計の針が九時半を指す頃にはお開きとなった。
木村先輩と駅で別れて、とぼとぼとマンションの方へ向かって重い脚を引き摺りつつ歩いていた私の頬に、ポツリと冷たい雫が落ちてきて。
夜だというのに、明るすぎる街のネオンのせいで、星なんか見えない都会の夜空を見上げて、目を凝らしてみれば……。
どんよりとした仄暗い厚い雲に覆われているように見える。 どうやら雨が降ってきたらしい。
今日は、天気予報のお姉さんが傘の心配はないって言ってた筈なんだけどなぁ。
まぁ、いいや。ちょうど涙も出てきちゃったし。
このまま濡れて帰っちゃえば、泣いてたことなんてバレないだろうし。
帰ったらバスルームに直行して、シャワーでも浴びたら、少しは落ち着くだろう。
そう思って、雨に濡れて帰る覚悟をした私に容赦なく無数の雨が打ち付けてくる。
もう涙か雨かも区別がつかなくなってしまった、私の濡れた顔はきっとグチャグチャだ。
あと少しで、副社長の所持するマンションが見えてくる。
そう思っていた濡れ鼠と化した私の身体は、一体どこから降って湧いたのか、
「そんなに濡れて、風邪でもひくつもりかっ!」
そう言って、怒ったような声を響かせた副社長によって、抱きしめられてしまっていた。
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