14065人が本棚に入れています
本棚に追加
びしょ濡れになってしまった私はショックのせいか、はたまた昨夜の寝不足が祟ったのか、単なる風邪なのか。
麗しい副社長のあったかい腕の中に抱かれながら意識を手放してしまっていた。
「おいっ! 美菜!? どうしたっ!?」
副社長の酷く焦ったような声を遠くで感じながら。
♪゜・*:.。. .。.:*・♪
どこか遠くで、何やらぼそぼそと話をしているようなそんな話し声が聞こえてくる。
「心配なのは分かるが、この子は大丈夫だから安心しろ」
「若い看護師の尻ばっか追いかけてるような、お前みたいな医者の言うことなんて信用できない!」
「おい、ちょっ……要ぇ。気持ちは分かるけど、そんな誤解されるような言い方はやめろってぇ。うちの可愛い嫁に聞かれたら、どうしてくれるんだ?」
「フンッ。そりゃ、お前の大事なアレがメスで削がれて、ホルマリンにでも浸けられるんじゃないのか」
「……本当にそーなりそうだから……もうやめてっ」
まだ意識がちゃんと覚醒していないせいか、まだ夢の中にでも漂っているようなこんなおぼつかない頭では、
きちんと聞き取るどころか、もしかしたらまだ夢の中かもしれないと思うほど不鮮明だけれど。
どうやら一人は副社長の声のようだ。
大好きな副社長の声をこの私が聞き違える筈がない。
もう一人、男の人の声が聞こえるけれど、夏目さんの声ではないようだし、聞いたことのない声で。
機嫌でも悪いのか、酷く苛立ったような刺々しい声でピシャリと言い切った副社長にも、少しも動じることなく、冷静な声で答えて……いるような、いないような。
でも、なんだかちょっと物騒な話をしているような、そんな雰囲気になっていってるような、そんな気が、しないでもない。
――副社長は、一体誰と話しているのだろう?
そう思った私が重い瞼を持ち上げた瞬間、急に目を開けたせいで、眩い照明の光に対応しきれなかった私の眼がくらんでしまいギュッと瞼を固く閉ざすと。
「おい、美菜!? どうした!? どこか苦しいのか? おいっ! 譲、さっさとなんとかしろっ!」
そんな私の様子をどうも具合が悪いからだと勘違いしてしまってる風な副社長が、えらく必死な声で。
譲と呼ばれた男性に掴みかかる勢いで詰め寄っている様子が、声や気配だけでも分かる程の緊張感を醸し出しているように感じられる。
けれど、覚醒した筈の頭はとても痛くてガンガンするし、どういうわけか身体は鉛の如く重くて怠くてどうにもならない。
気のせいか、身体も燃えるように火照って熱いような気がするし。
一体、何がどうなってしまっているのでしょう。
最初のコメントを投稿しよう!