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――あーぁ、熱があるせいなのかな……。
副社長には、いままでだって、散々あの手この手で攻めてこられているというのに。
副社長のこの優しさは、私を好きにさせるための手段にすぎないって、分かってる筈なのに。
副社長にさっき言われた言葉がスーッと心に響いてきちゃって。
副社長のことを『好き』だっていう胸の奥の方に秘めたこの想いが、ついうっかり零れそうになってしまった。
そんな私の脳裏には、まるで釘でも刺すかのように、副社長の見たこともない元カノの影がチラついてきてしまう。
――ダメだダメだ、こんなんじゃ。
このままこんな調子で、あの手この手で攻めてこられちゃったりしたら、なし崩し的に、結婚する羽目になっちゃうじゃないか。
副社長と元カノの間に、どういう事情があったかなんてそんなこと知らないけれど。
でも、きっと副社長の心の中には、まだ元カノがいて、私をその元カノの代わりにしようとしているのだとしたら……。
――そんなの耐えられないよ。
このまま、副社長の傍に居たいとは思うけれど、やっぱり結婚だけは阻止しなければ。
それに、いくら熱があるとはいえ、研修中とはいえ、一応副社長の秘書でもあるのだから、そういうことにも気を回さなければいけなかったんだ。
――ダメだなぁ、私は。あぁ、でもだからだったのか……。
だから、あの時、夏目さんに教育的指導されちゃったのかぁ。
そういえば、夏目さんにも、酷いこと言っちゃったままだったし。
熱でぼんやりしながらも、色々な考えを巡らしていた私は、ようやく自分の立場を思い出すことができて。
「し、仕事、大丈夫なんですかっ!? それに、夏目さん。夏目さんはどこですか?」
そんな私は、思い出したことをそのまま声に出していた。
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