それぞれの思惑~後編~

23/39
前へ
/703ページ
次へ
――あーぁ、熱があるせいなのかな……。 副社長には、いままでだって、散々あの手この手で攻めてこられているというのに。 副社長のこの優しさは、私を好きにさせるための手段にすぎないって、分かってる筈なのに。 副社長にさっき言われた言葉がスーッと心に響いてきちゃって。 副社長のことを『好き』だっていう胸の奥の方に秘めたこの想いが、ついうっかり零れそうになってしまった。 そんな私の脳裏には、まるで釘でも刺すかのように、副社長の見たこともない元カノの影がチラついてきてしまう。 ――ダメだダメだ、こんなんじゃ。 このままこんな調子で、あの手この手で攻めてこられちゃったりしたら、なし崩し的に、結婚する羽目になっちゃうじゃないか。 副社長と元カノの間に、どういう事情があったかなんてそんなこと知らないけれど。 でも、きっと副社長の心の中には、まだ元カノがいて、私をその元カノの代わりにしようとしているのだとしたら……。 ――そんなの耐えられないよ。 このまま、副社長の傍に居たいとは思うけれど、やっぱり結婚だけは阻止しなければ。 それに、いくら熱があるとはいえ、研修中とはいえ、一応副社長の秘書でもあるのだから、そういうことにも気を回さなければいけなかったんだ。 ――ダメだなぁ、私は。あぁ、でもだからだったのか……。 だから、あの時、夏目さんに教育的指導されちゃったのかぁ。 そういえば、夏目さんにも、酷いこと言っちゃったままだったし。 熱でぼんやりしながらも、色々な考えを巡らしていた私は、ようやく自分の立場を思い出すことができて。 「し、仕事、大丈夫なんですかっ!?  それに、夏目さん。夏目さんはどこですか?」 そんな私は、思い出したことをそのまま声に出していた。
/703ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14065人が本棚に入れています
本棚に追加