それぞれの思惑~後編~

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それを聞いた副社長のトントンしてくれていた筈の優しい手の動きが、何故か突然ピタリと止まってしまった。 それを不思議に思った私が「副社長?」と発した声を聞いた副社長は、 「……あぁ。仕事と、夏目のことだったな?」 私の言葉を思い出したかのように聞き直してくると。 「はい」 という私の声を聞き終える前に、私の身体をそーっとベッドの端に座らせるように下ろしてから、真正面に身を屈めてきた。 急に、感情の読めない無表情を決め込んだ副社長に、真正面から見詰められて、居心地が悪くなってきた。 ただでさえ熱があるせいで、身体だけじゃなく、心までフワフワとしているというのに……。 このままだと、高鳴ってしまった胸の鼓動どころか、副社長へのこの想い全てを見透かされてしまいそうで。 なんとかしっかりしなきゃと、気を引き締めようと身構え踏ん張っていた私は、 「そんなに、気になるのか?」 副社長にそう聞かれても、コクコクと何度かただ頷いて返すことしかできなくて。 そんな私のことをジーッと見詰めていた副社長は、どういう訳かどこか寂しげな表情をしているように見えてしまった。 けれど、それはホンの一瞬のことだったから、私の気のせいだったのかもしれない。 だって、すぐに、副社長はちょっと困ったように微笑んでいて、 「美菜は何も心配しなくていい。傍に居てやるから、ゆっくり休んでろ、な?」 まるで小さな子供に優しく言い聞かせるようにして、頭をポンポンッてしてくれたから。 そうしてそのまま、私をベッドに横たえさせると掛布団を掛けようとしてくれている。 きっと、熱がある私に余計な心配を掛けさせまいと、気遣ってくれているつもりなんだろうけれど。 たとえそうだったとしても、やっぱり気になってしまうし、なんだか誤魔化されたようで納得なんかできる訳もなく。 それに、夏目さんの姿を一度も目にしていないことも、妙に引っ掛かってしまって。 「気になっちゃって、このままじゃ眠れません。もしかして私、夏目さんに迷惑掛けちゃってるんですか?」 どうしても、気になってしょうがない私は、折角副社長が掛けようとしてくれていた掛布団を押し返すようにして起き上ってしまっていた。
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