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直後、夏目さんの言葉により、
「いやいや、お互い様ってことで。……ええと、美菜ちゃんは、会食に女性が居たかが気になってたんだっけ?」
「……はい」
話がいよいよ核心に及んだ途端。
すっかり忘れかけていた緊張感に見舞われた私が、ゴクリと唾を飲み込んで、夏目さんの口許を凝視していたところ。
「……そんなに心配なくても大丈夫だよ。確かに居たけどさぁ……。社長の古い友人でお得意様でもあるJ航空の西園寺社長と、その娘さんの、えーと、なんだっけなぁ? なんかの楽器やってて海外を拠点に活動してる……ええと」
「……もしかして、その娘さんって、バイオリニストの西園寺静香さんのことですか?」
「あっ、そうそう、それそれ。バイオリニスト。俺、クラシックとか興味なくて、そういうのに疎くってさぁ……。美菜ちゃんよく分かったね?」
「あぁ、はい。西園寺っていう苗字珍しいじゃないですか。……それに、ちょっと前に、テレビで観てたから……」
「ふうん、そっか。まぁ、でも、要とは幼馴染みみたいだったし。全然心配することないよ……って言っても、美菜ちゃんはその場に居なかったし、心配にもなるよな? けどさぁ、今日一日美菜ちゃんが居なかっただろ?
要のやつ、よっぽど美菜ちゃんのことが心配だったんだと思うよ。もう、美菜ちゃんしか見えてないって感じ?
だってさ、会食の時なんて、ずーっと、心ここにあらずって感じだったし、ほんとなんにも心配することないと思うけどなぁ……」
「……そっ、そうですか……。分かりました。変なこと訊いちゃって、すみませんでした」
「ううん、全然」
「じゃぁ、おやすみなさい」
「うん。おやすみぃ」
夏目さんからは、思っていた通りの言葉が返ってきてしまったけれど……。
そろそろ、要さんがシャワーから戻って来そうだし。
せっかく夏目さんが、私が不安にならないように、フォローまでしてくれたけれど……。
要さんの様子がいつもと違ってたのは、きっと静香さんに再会した所為なんだろうと思う。
けど、確かめようがないし、妙に追及して、これ以上夏目さんに余計な心配かけるのも嫌だし。
それに、これ以上詳しく訊いてしまったら、今度こそ立ち直れなくなりそうだったので、私は早々に寝室へと戻った。
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