深まる疑惑

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私が秘書室に異動になってからというもの、要さんや夏目さんと一緒に比較的早い時間に出勤しているお陰で、朝の静かな秘書室には、まだ三上室長の姿しかない。 「「おはようございます」」 「夏目くんに綾瀬さん、二人ともおはよう。綾瀬さん。体調の方はもう大丈夫? あまり無理しないでね。副社長が心配するからほどほどにね?」 「はい。ありがとうございます」 秘書室で夏目さん以外で、唯一副社長である要さんと私のことを知っている三上室長。 実は、おばあちゃんの件で帰郷したとき。 これからのことも含め、色々都合がいいからと、要さんの提案で、三上室長には、結婚することも、一緒に住んでいることも、すべて伝えてくれていたのだった。 異動してきた時と変わらない、優しい笑顔で出迎えてくださる三上室長の優しい心遣いに感謝しつつ。 荷物を置くなり、早速仕事に取りかかった夏目さんに(なら)って、私もいつものように秘書室での業務に取りかかった。 私は夏目さんの指示により、床の汚れが酷いときには掃き掃除にモップがけ、窓や机などの拭き掃除をしたり。 ゴミ箱のゴミの回収や、給湯室のポットや珈琲メーカーの準備などをしたりという風に。 秘書室の先輩方が出勤してくる頃には、諸々の準備があらかた整うように心がけていた。 夏目さん(いわ)く、秘書室は、専務の秘書である蔵本(くらもと)さんと夏目さんを除くと残り全て女性なので。 こうやって、色々と気を配っておかないと、やっかみやら妬みなどなど、女性特有の厄介ごとがあるらしい。 特に、新入社員で、しかも最近異動になってまだ二ヶ月ほどの私は、"格好の餌食"になりやすいのだという。 夏目さんだけじゃなく、今は高梨さんが何かと気にかけてくださってるお陰で、取っつきにくい雰囲気漂う秘書室にも、なんとか馴染めてきたけれど……。 それでも、秘書の先輩方との間には、まだまだ分厚い壁が立ちはだかっているように感じてしまうことがある。 だから、要さんとのこれからのこともあるし、ちょっと不安だったりする。 このあと、そんな私に追い討ちをかけるような出来事が待っているのだった。
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