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そんな私の頭の中では、
『いつから?』『なんで?』『どうして?』がひっきりなしに飛び交っていて。
真っ白になった頭では処理しきれずに、ただただじっと息を潜めていることしかできないのだけれど……。
そんな私のことなんて置き去りにして、先輩方の話はどんどん進んでいく。
「そうそう! それっ!」
「あっ、それ! 私も気になってたのよねぇ」
「――えぇっ!? 何それっ!あたし知らないんですけどっ!?」
「あら、そうなの? でも、後任の秘書を誰にするかってなったとき、副社長の鶴の一声で、一般職のしかも新入社員の綾瀬さんが異動になったって聞いたとき、みんなで言ってたじゃない。もしかするかもって」
「それはそうだけど……。本当にそうだっんだぁ? うわーショック~。
実は私、副社長に憧れてたんだけど、私とじゃ格が違うし、夏目さんとの噂があったから諦めてたのにぃ。それをぽっと出の新入社員に持ってかれるなんて~。メチャクチャ悔しいんですけど~。
あー、副社長もやっぱり、若くて何も知らないような女に引っ掛かっちゃうのねぇ……」
「はいはい、分かった分かった。今度ゆっくり愚痴聞いてあげるからちょっと静かにしてなさい」
「あっ、どいひー。いいもんいいもん……」
「ねぇ、どうなの? その後の進展は?」
「えー、そんなの分かるわけないじゃん。まさかあの夏目さんに訊くわけにいかないしぃ……。まぁ、でも、副社長と結婚するのは確実みたいよ。
前に、三上室長と西条部長の会話を偶然聞いちゃったんだけど。『要坊っちゃんのお相手が決まってうちも安泰だ』って、西条部長が声を震わせながら喜んでたもん」
「やっぱりかぁ? なんかあるとは思ってたけど、まさか結婚までいくとはねぇ……。でもたしかに今思えば、最初からおかしいことずくめだったものね?
女嫌いで冷たい、あの、仕事の鬼である夏目さんの下にわざわざ新人つけて、辞表出させるようなこと普通しないもんねぇ……」
「ハハ、確かに。普通なら、夏目さんに厳しく叱られて、即、辞表コースよねぇ?」
「「確かに」」
「あー、でも、あの子って、素直そうでおとなしそうな見かけによらず、ちゃっかりしてるものねぇ?
私たちより速く出勤して、準備とかしてくれてて、最初は『気が利くいい子が来てくれた』って思ってたけど……。
あれも、三上室長や夏目さんに気に入られるための、計算だったってことでしょ?」
「あっ、それ。あたしも思ったぁ。きっと副社長も、そういうところにコロッと騙されちゃったのよ~」
先輩方の話がどんどん進んでいくにつれ……。
私の悪口大会のようになってきて、聞いてるうちに、どんどん沈んでいく気持ちを何とかしようと、両耳を手で押さえようとしていたところで。
私が入っている個室とは違う個室から水の流れる音が聞こえてきたと同時。
ドアが無遠慮に開け放たれる音がバタンッと豪快に響き渡ったかと思えば……。
あんなに騒がしかった筈の女子トイレの空間が一気に静まり返って、先輩方の息を飲む微かな音までが聞こえてきそうなほどだ。
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