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初めて見上げる重厚なドアの前までやって来た私は、緊張でガチガチになってしまっている身体と気持ちをなんとか解きほぐすために、大きな深呼吸を何度か繰り返してみた。
そんなことをやってみたところで、当然そんな簡単には解れるわけもなく。
諦めることにした私は、グッと握りしめた右手の拳を目の前のドアめがけて振り上げた。
ーーコンコンコン
私が鳴らしたノックの音が響くのを、このドアの向こうでいるだろう人物も聞いているんだろう、そう思うと、また余計に緊張してしまう。
――できることなら、今すぐこの場から逃げ出してしまいたい。
なんて、緊張の所為で、どうしようもないバカなことまで考えてしまう自分に呆れてしまう。
「どうぞ」
そんなバカなことをしていた私の耳に、ドアの向こうの人物の偉く落ち着いた低い声が流れ込んできた。
私は少しでも気を紛らすために、今ここに来ている用件でもある、あるモノを忍ばせた紙袋の紐を強く握り直して。
「はい、失礼いたします」
緊張して乾いた喉が張りついて、掠れてしまいそうになるのをなんとか堪えながら、なんとかよそ行きの声で答えて、ドアを恐る恐る開け放てば。
正面イッパイに現れた大きな窓に背を向けて、こちらを見据えて座っている副社長らしき人物の姿が視界に入ってきた。
窓から外の光彩が射し込んでいるせいで、まるで後光でも射しているように見えてしまう。
限界に達してしまった私の緊張は今にも振り切れてしまいそうだ。
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