深まる疑惑

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要さんのお母さんである社長とのご対面のことで頭がいっぱいで、せっかく静香さんのことが薄れかけていたっていうのに。 ――これじゃぁ元の木阿弥(もくあみ)だ。 私はさっき知り得たばかりの事実の所為で、再び疑心暗鬼に陥ることとなって。 昨夜、要さんから香った女性の香水や、少し機嫌の悪かった要さんの様子、今朝私がピアスを見つけたときの要さんと夏目さんの様子を思い返しては……。 やっぱり、あの香水の香りは静香さんのモノだったに違いない。 きっと、昨夜何らかの理由で、静香さんは要さんと一緒にあの車に乗っていたのだろう。 そしておそらく、その時に何かがあって、静香さんのピアスが落ち、要さんに静香さんの香水の香りが移ってしまったのだろう。 要さんの機嫌が悪かったのが何故なのかまでは分からないけれど、それもきっと、少なからず静香さんが関係しているのだろうと思う。 どうやら要さんは、私が元カノである静香さんと会ったことまでは知らないようだから、私に静香さんのことを知られたくなくて、嘘をつくしかなかったのだろうし。 これは、私がそう思いたいだけかもしれないが、もしかしたら、優しい要さんのことだから、私に要らぬ心配をかけたくないと思ってのことだったのかもしれない。 そのことを知っているであろう夏目さんも、私に余計な心配をかけまいとして、要さんの嘘に付き合っているのかもしれない。 二人揃って、私に嘘をついていたなんて思いたくはないけど、そう考えると、全てのことが腑に落ちる。 以上のことをふまえると、昨夜のことは全て静香さんに関係しているということで、間違いはなさそうだ。 ――あぁ、やっぱり、昨夜静香さんと何かあったんだ。 そう思うと同時、遡ること二ヶ月前、私のことを秘書室に異動させた要さんは、どうしてそのことを私にずっと隠していたのだろうという疑問が浮かんできて。 そのことを考えていると、どうしても、最初に要さんと私との間で交わしたあの契約に行き着いてしまう。
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