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「あぁ。……それと、副社長室に行く時にこの書類も一緒に頼む。副社長の捺印が必要だから、すぐに目を通してもらって、ここと、ここにも、捺印してもらってほしいんだが……」
そう言ってきた夏目さんから受け取った書類に一緒に添えられた付箋には、
【午後からずっと顔色悪いけど大丈夫?
この書類急がないから要のとこで休ませてもらうように。
因みに、この件は、既に要にメールで了承済みだから、くれぐれも無駄な抵抗はしないように。
すかしたインテリ銀縁メガネより】
走り書きされた文字で、そう書かれていて……。
パソコンに向かいながらも、私のことを気にかけてくれてたらしい優しい夏目さんに、これ以上心配をかけないためにも、なんとか笑顔を浮かべ、
「……はい、分かりました。じゃぁ、先にコーヒーの準備してきます」
「あぁ。頼む」
いつも通り夏目さんと言葉を交わしてから、重たい足取りで給湯室を経由して、副社長室へと向かったのだった。
――いつも通り、平常心、平常心。
心の中で、邪念を振り払うためにそう唱えながら。
♪゜・*:.。. .。.:*・♪
ほどなくして到着した副社長室。
ノックした私に、入室を促してくれる低くてよく通る、あの耳に心地いい要さんの声を聞き届けてから、いつものようにを心がけつつ脚を踏み入れると。
そこには、真夏のまばゆい陽光が燦々と降り注ぐ、正面の大きな窓に背を向けて、こちらを向いて佇んでいる要さんの姿があった。
まるで、後光でも射してるかのようなその光景に、目を奪われた私は、ここへ初めて訪れたときのことを思い出した。
あれから、まだ四ヶ月ほどしか経っていないというのに、色んなことがあった所為か、なんだか酷く懐かしさを感じて、途端に胸の奥の方から熱いものまで込み上げてきた。
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