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「……ん? どうした?」
感慨深さに浸って泣き出してしまいそうで、要さんの姿に視線を留めたまま動けずにいる私の様子に、どうしたのかと心配そうに声をかけてくれた要さん。
ここからでは、後方の窓から射し込む光が強すぎて、目が眩み、要さんの表情まで窺い知ることはできない。
けれどきっと声同様に心配そうにしているのだろうと思う。
その声で、私はようやく我に返ることができた。
――いつも通り、平常心、平常心。
今一度そうやって、自分に言い聞かせつつ、深い深呼吸で心を落ち着けてから、
「……あっ、いえ、ちょっと眩しかっただけです」
なんとか泣かずに、いつの間にか窓際から私のすぐ傍まで来ていた要さんへ、そう返すことができたのに……。
一方の要さんは、まだ納得いかない、そんな表情をしていて。
私の手からコーヒーとチョコを乗せたトレイを素早く受け取りテーブルへと移動させると。
「……そうか、ならいいが」
そう言って、私のことを自分の胸へと引き寄せながら、
「夏目の言う通り、少し顔色が悪いようだ。仕事熱心なのはいいことだが、俺は夏目のように美菜の傍についててやれないから、心配で心配で堪らない……。だからあまり無理はしないでほしい」
そんな言葉を、切なげな声音でお見舞いされて、私の身体を抱きしめる腕にまでぎゅうっと力を込められてしまえば……。
要さんの私への想いと優しさが、要さんのぬくもりと一緒にじんわりと伝わってくるようで……。
せっかく泣くのを堪えることに成功したというのに、またもや泣いてしまいそうになる。
でも、ここで泣いてしまったら、変に思われてしまうだろうし。
もしも理由を問われたりしても、静香さんのことを言う訳にはいかない。
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