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「まぁ、まぁ。そんな堅苦しい挨拶はなしにしましょう? こんなに緊張しちゃって、可愛らしいわぁ。若い頃の自分を見ているようで、懐かしいわぁ」
相変わらず私の手を包み込んだままで、なにやら懐かしそうに遠くを見つめておられる麗子さん。
そこへすかさず、
「……母さん。寝言はそれぐらいにして、美菜が困惑してるから解放してやってほしいんだけど」
酷く呆れた表情の要さんのこれまた酷く呆れたような声が割り込んできたけれど。
そこは、さすがは要さんのお母さん。
要さんの声にもなんら怯むことなく、難なくかわして、
「……んもうっ、要ったら、相変わらず親に対して失礼なんだからぁ……。息子なんて可愛かったのは小さい子供の時分だけねぇ」
「すみませんね。誰かさんのお陰で、毎日仕事にばかり追われてるせいで、心にゆとりがないもんで」
「あら、誰のことかしら?
それにしても、両親が言ってた通り、可愛らしいお嬢さんだこと。ねぇ、美菜さん、今度は要抜きでゆっくり母娘水入らずで温泉にでも行きましょうよ?」
「……え、あぁ、はい」
「はっ!?行かせないしっ」
「あら、やだ。蚊でも入ってきたのかしらぁ。耳障りだわぁ」
「……」
「……」
なんて、どこまでもマイペースに話が進められていく。
その光景を目の当たりにした私が、あの要さんを黙らせるなんてさすがだなぁ、なんて、変なところで感心してしまったほどだ。
そんな感じで、なんとか無事に要さんのお母さんとの初のご対面を果たすことができ。
それからほどなくして、要さんの祖父母である虎太郎さんと雅さんも加わって。
あれよあれよといってるうちに、話はどんどん進んでゆくのだった。
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