深まる疑惑

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そして、とんとん拍子に話は進み、結婚にまで及んだ結果、おばあちゃんのこともあるため、年が明けて春頃がいいんじゃないかということになった。 昨日までは、どうなることかと案じていたのだけれど、要さんのお母さんがとっても気さくな方で、私は肩の力を抜いて、終始和やかムードで過ごすことができた。 そんなこんなで、結婚に向けての話も一通り済んだところで、昼食のために用意された和洋折衷の豪華なお料理の数々が、広い卓上にところ狭しと並べられて。 いつしか宴会ムードになっていたのだった。 お酒好きだという虎太郎さんに、お酌していた筈の要さんは、 「要、めでたい席なんだからもっと呑みなさい!」 虎太郎さんにそう言われ、持っていた冷酒の入った切子細工のガラス容器を取り上げられてしまい。 さっきからご機嫌な虎太郎さんによって、お猪口ではなく、グラスに注がれた冷酒を煽らされている要さん。 そんな要さんの顔はほんのりどころか、もうすっかり紅く色づいてしまっていて。 「いや、いや、もう充分呑んでるから」 口調はいつもと変わらないようだけれど……。 なんだか目もとろんとしていて、いつにも増して色っぽく見える要さんは、どうやらずいぶんと酔っぱらってるご様子だ。 私も、雅さんや麗子さんと一緒に、美味しいご馳走に舌鼓を打ちつつ、少々お酒もいただいたりして、楽しいお喋りに花を咲かせていた。 そんな時、襖の向こうから、突然、 「ずいぶん遅くなってしまい、申し訳ありません。隼です」 要さんの弟である隼さんらしき男性の、要さんに負けず劣らずのよく通る声が聞こえてきて。 「おー、隼か。いいから入りなさい」 虎太郎さんのその声に促され、開け放たれた襖の向こうから現れた隼さんと、その隣に現れたある人物の姿に、私の穏やかだった鼓動は、途端に嫌な音をたて始めた。
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