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相変わらずちょっと軽くて明るい声で話してくれた夏目さんの言葉を聞いているうちに、あの頃、美優さんのことを話してくれた夏目さんの辛そうな顔が不意に浮かんできた。
それが、今目の前にいる夏目さんの表情とがシンクロして一つに合わさって、ダブって見える。
ちょうどそこに、話し終えた夏目さんが、また私の正面に向き直ってきて。
私の視界いっぱいには、頭上に広がる晴れやかな青空を背負った、晴れやかな表情をした夏目さんが私に向けてにこやかな笑顔を満面に綻ばせている顔が映し出されている。
過去と今の夏目さんの顔とが合わさった途端、その全てがぐにゃりと歪んでいく。
どうやら私は、泣いてしまっているようだ。でも、辛くて泣いてるんじゃない。
静香さんから色々聞かされてしまってから、夏目さんのことがちょっと引っかかっていたっていうのもあって。
それが今ようやくスッキリしたような、そんな晴れやかな気分だ。
もしかしたら夏目さんは、そのことを要さんに聞いていたのかもしれない。だから話してくれたのかもしれない。
そう思うと余計に涙が溢れてきてしまう。
それに加えて、あの頃の夏目さんは、美優さんのことで自分を責めてばかりいたのに、今はちゃんと自分のために進もうとしているんだってことが、晴れやかな表情からも分かって。
なにより、それが嬉しくて堪らなくて、感極まってしまった私の涙はタガが外れてしまったかのように次々に溢れ出てしまうのだった。
最後には、あの頃よくおでこにされてたデコピンを夏目さんにお見舞いされた私が、「痛ッ!」と思わず声を出した時には、
「こーら、また泣く。俺には香澄ちゃんも居るしさ、美菜ちゃんには要が居るんだし、お互い誤解されても困るだろ? 分かったら涙をさっさと拭く。あっ、こら。そんな強く擦ったらダメだろ? たくっ、相変わらず手が焼けるな。そんなんでお母さんになって大丈夫なのか?」
これまたあの頃のように、泣き出してしまった私に、軽く突っ込みを入れてきた夏目さんによって、お小言まで喰らってしまっていた。
「夏目さんが泣かしたんじゃないですかぁ」
「あれ? この涙も妊娠したせいじゃなかったのか?」
「違います。夏目さんのせいですっ」
「はいはい、分かった分かった。どれどれ、貸してみ?」
「あっ、自分でできるのにぃ」
「はい、チンしてみ?」
「もうっ、鼻なんてかみませんっ!」
「ハハッ」
それからは、あの頃に戻ったように、面白おかしく茶化してくる夏目さんに、子供扱いされてムッとした私が文句を言っている隙に、私の手からハンカチをいともたやすく奪い取った夏目さん。
夏目さんはお兄ちゃんが妹の面倒を見るようにして、とっても楽しそうに私の涙をそうっと優しく拭ってくれている。
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