第1章

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 だから、こちらの「あのときはすごかったよね」という話題も「そうだったね」と簡単な返答で済ませ、具体的な話は持ち出さない。話はそれで終わる。  外見は変貌したものの、顔立ちや声はA子そのもの。  町の噂でも彼女が実家を出入りする姿は目撃されている。  だから、本人であることは間違いないはずだった。しかし、このときBちゃんは疑問を感じてしまったらしい。  ん? と。 「いや、それだけで判断するのは」とわたしはクチをはさんだが、どうやら余計なお世話だったらしい。 「もちろん、それだけじゃありません。話は最後まで聞いてください」と、Bちゃんは続けた。  3  Bちゃんは、A子さんとの会話を途中でさえぎりトイレに行った。  喫茶店のトイレはチェーン店のように立派なものではなく、一般家庭のように個室一つで、彼女はそこでしばし考え込む。  このときは確信じみた疑いではなかった。疑いが疑いという形にすらなっておらず、もやもやと頭の中で蠕動しただけだ。  それも、ため息と同時に流される。  アホらし、と脳裏に芽生えた考えを否定した。それは、昔のSF映画のようにA子が偽物に取って代わられたというものだった。  そんな古典的な内容、何で現実に起きなきゃいけない。  Bちゃんは、トイレから出て席にもどった。  A子ちゃんをふと――見ると、違和感。 「えっ」  一瞬だ。  一瞬のことであるが、A子の顔が妙な物体に――なっていた。  ?  意識をとりもどす。 「どうしたの、Bちゃん」と、A子が心配しだした。  慌てて、Bちゃんは「何でもないよ」と返した。  席にすわり、小食の彼女は一時間経っても飲みきれないメロンソーダをまたチビチビとストローで吸っている。 (何だったんだろう、今のは)  深海に住む生物のように、奇妙な形をした物体がA子の頭にくっついてたような?  結局、お金の貸し出しはなしになった。  Bちゃんは大分苦労して話を遠回りさせたらしいが、それはあまり意味がなかったようで、改めてA子に「お金は無理?」と聞かれると「ご、ごめん」で終わったらしい。  A子はにっこりと気にしてないよ的な笑顔を浮かべて、お会計して去って行った。  Bちゃんはこのとき、彼女のあとをつけた。ほんとなら、いけないことだ。  どういう動機かはしれない。
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