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「次は?小久保ぉ?。小久保でございます。降りられるお客様は忘れ物の無いようご注意ください」
現在住んでいる都会の電車とは若干異なる言葉遣いのアナウンスを聞き、私は自分が目的の駅にたどり着いたのだと知らされる。
若干の眠気をなんとか吹き飛ばし、私は電車から降りた。
久しぶりに見る地元の風景は記憶に焼き付いていた風景となんら変わりはなかった。つまり、昔のままの風景だということだ。
駅を取り囲む森林の風景も。山に沿うような階段の果てにある神社の風景も。山々に囲まれた街並みも。老人しかいない町役場も。いつも閉まっているコンビニも。何もかもが昔もままだった。
そして勿論、私の実家も昔のままだった。
もう何年も使っていない実家の合鍵を使って鍵を開け、木製のスライドドアを開ける。
玄関からまっすぐに伸びる幅広の廊下も、玄関先に置かれた傘立ても昔のままだ。
「ただいま」
別段誰かに言うつもりでも無く、半ば無意識に帰宅の挨拶を呟く。
「はーい」
それほど声を張ったつもりはなかったが、少し遅れて声が返ってきた。
嗄れた女性の声。もう何年も聞いていない母親の声だ。
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