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「んーじゃあ、代わりに私のマフラーを半分貸してあげよう」
ふわりとマフラーが巻かれて彼女との距離も近くなる。反射的にドキリと高鳴った胸。そりゃ大人しければ可愛いし、優しところもある。なにより彼女のことは昔からよく知っているので恋をしてしまってもおかしくはないのかもしれない。そんな風に僕がぐるぐると頭で考えていると彼女は手に持ったホットドッグを見つめた。
「美味しいのにな、ブーダン・ノワール」
「…………ブーダ……? なにそれ」
きらりと彼女の瞳が輝き、今日一の笑顔であろうその顔で一言。
「豚の血が混じったソーセージのこと」
そう言った彼女が美味しそうにホットドッグへとかぶりつくのを見て、カチンと身体が固まる。そのホットドッグに挟んでいるソーセージには豚の血が混ざっているというのに、それはそれは美味しそうに食べている。
「…………そう、なんだ」
僕は彼女から目をそらす。
胸の高鳴りで芽生えた熱は一気に冷えた。
何度も芽生えかけていたソレは今回もまた芽生えはしないのだと少しだけ切ない気持ちになりながら空を見上げる。
なにも変わらないどんよりとした雲が青空をおおっていた。
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