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接待だから。
そう言って楓貴は、隣県まで車を走らせた。
地元にはちゃんとしたホテルはほとんどない上、誰に見られているかわからない。
もちろん、それこそ取引先の接待だったと言えば、穿った見方をされることはないだろうけれども、それでもリスクはなるべく回避したい。
同性同士の恋愛ですら、田舎ではまだまだ理解が少ない。
地元で客商売をしている以上、二人の関係は隠し通す必要がある。
ましてや、彼らは、周囲の理解など得られるはずもない近親姦だ。
自業自得の楓貴はともかく、彼に巻き込まれただけの市敬を、迫害の対象になんてさせるわけにはいかない。
兄弟というのは、自宅でならば密やかな睦み合いがいくらでも可能だけれども、いざ外で、となると酷く煩雑になるということに、楓貴は嫌でも気づかされた。
だから、接点があまりない隣県の、中でも人口の多い東京に隣接した地域のシティホテルを選んだ。
それも、念のため、ダブルルームではなくツインだ。
ベッドが狭いのは我慢して貰おう。
どうせ普段だって、ことが終わった後はシングルで朝まで一緒に寝ているのだ。
セミダブルなだけ、いつもよりも広い。
市敬は、そんなことには文句を言わない。
ベッドが狭いことよりも、楓貴がいろいろ気を回して、わざわざ遠くまで連れてこられたことを「めんどくせぇ」と思っているのがありありとわかる。
彼は他人からどう思われるかなんてことは少しも気にしないのだろう。
社内でも平気でキスを許すぐらいだ。
いけないと思いつつ、いつもそれに飛び付いてしまう自分も自分だけれども。
市敬は、誰に何を言われようと自分がしたいように振る舞い、それを力ずくで周囲に認めさせていける男だ。
それでも、その市敬ですら、兄弟姦だけは致命傷になるだろう。
そのことをどの程度わかっているのか。
そんな思いにモヤモヤしている楓貴を置いて、そのひとは部屋に入るなりさっさと浴室に向かってしまった。
「ふう、接待だろ、早く来い、とっとと洗えよ」
浴室から呼ばれて、はあ?と楓貴はモヤモヤがどこかにふっ飛んで行った。
どこの接待でソーププレイするんだよ、あんたは。
つか、まさかホントに接待で取引先の背中とか流してないだろうな?
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