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そのまま、狭いユニットバスでも、場所を移動して狭いベッドの上でも、触れられなかった分を埋めるように、何度も何度も貪るように身体を繋いで。
隣のベッドで寝ることを許してくれない市敬の身体をくるむように抱いて、楓貴もウトウトと浅い眠りに落ちた。
明け方近く、喉が乾いて目を覚ました彼は、腕の中で眠るそのひとを起こさないよう細心の注意を払って、そっとベッドを降りる。
部屋に備え付けの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して口に含んだ。
と、眉間に深い皺を寄せたまま眠る市敬が、ふと、彼の名前を唇から零す。
自分をくるんでいた温もりが急に失くなって寒さを覚えたのか、何かを探すように身体がモゾモゾと楓貴のいたあたりににじりよっている。
その隣にそっと身体を滑り込ませて、再びくるむように抱き締めると、そのひとはピタリと動きを止めて規則正しい寝息をたて始めた。
楓貴は、胸に込み上げた熱い何かを堪えきれずに、瞼を伏せる。
涙が一粒、零れ落ちた。
なんて幸せなんだろう、と、彼は喉の奥で噛み締める。
愛しているひとが、自分の腕の中に安らいで眠っている。
ここが自分の居場所だと言わんばかりに、心地よさそうに収まっている。
そのひとをいとおしいのと同じように、その事実が愛しくて堪らない。
こんなに幸せなのに。
兄弟で愛し合うことは、そんなにいけないことなのだろうか。
誰にも迷惑はかけていないはずなのに。
祝福して欲しいとまでは望まないから、せめて、他人事だから、と知らん顔で放っておいて欲しい。
こんなふうに、逃げるように隠れながらでしか愛せないことが、酷く悲しくなるから。
それでも、そんな愛しかあげられなくても、そのひとを手離すことだけはどうしてもできないのだけれども。
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