4.

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その顔の痣を、そっと手のひらで撫でる。 くすぐったがりのそのひとが、猫のように少し目を細めた。 「こんなモン痛くねぇよ…昔はもっと派手にやってただろ」 だから、ふう、早く。 そんな催促を呟かれ、顔を撫でる手を掴まれて、指に噛みつかれた。 そのまま、誘うように舐められる。 「イチ?」 本当に、どうしたの? 心配そうな顔をする楓貴に、彼はチッと舌打ちした。 「っんとにニブいな、言わなきゃわかんねぇのかよ」 助けに来ただろ、だから、ご褒美だ。 さっきの拗ねたような顔は、照れ隠しだったのか。 そんな顔で、そんな可愛いことを言われたら、箍が外れても仕方ない。 顔の痣の上を辿るように、そっと唇を走らせる。 ツーリングを提案したのは、楓貴だ。 だから、元を正せば、こんなことになったのは楓貴のせいなのに。 それなのに、(ムチ)の代わりにご褒美(アメ)をくれるなんて。 「イチ」 俺のこと、甘やかし過ぎてない? 耳許にそう囁くと、うるせ、と小さく返ってきた。 聖、すげぇ喜んでたんだよ、ツーリング。 二輪の免許取りてぇって言ってくれて、嬉しかったんだよ。 だから、甘やかし過ぎじゃねぇ。 好きなだけ、抱けよ。 あんま時間ねえけど。 そのひとが、そんなふうに心の内を漏らしてくれることは珍しい。 それだけ、聖に喜んで貰えたことが嬉しかったのか。 それなら、キッチリご褒美を貰おう。 こんなにデレて可愛い市敬は、本当に貴重だから。 それに、それだけじゃない気がする。 市敬も、楓貴を少なからず求めてくれている。 ご褒美という名目で。 都合のいい妄想かもしれないけれど。 病院では禁煙だったおかげか、市敬の身体はいつもの煙草の香りの代わりに消毒液の匂いがしていた。
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