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「イチ、市敬…っ」
狭い車内で、ギシギシと車全体を揺らしながら、その身体を深く味わう。
そうして、その身体を貪りながら、楓貴は自身もかなりダメージを受けていたことに気づいた。
市敬に触れる手が、微かに震えてしまうのだ。
下手をしたら、このひとを失っていたかもしれない。
そんなことを、今更になって、震えるほど恐ろしく思う。
昨日は、聖から電話を受けて、とにかく助けるための救援を呼んだり、自分も現地に駆けつけたり、病院に行ったり、聖のケアをしたりと忙しかったから、あまり深く考える暇もなくここまできてしまったけれど。
このひとを喪ったら。
楓貴は、ただただ市敬の側にいることだけを考えて生きてきたのだ。
それ以外の生き方なんて、知らないし、する気もない。
だから、もしもこのひとが喪われたら、間違いなく、自分も後を追うだろう。
堕ちるときは一緒でなくては。
地獄への道行きを、一人で先に逝かせるわけにはいかない。
地の底までも一緒に堕ちると約束したのだ。
決して一人にはしないと。
喪われずに済んだ、損なわれずに済んだ、そのことを確かめるように、その震える手で全身をまさぐりながら、体内の熱を何度も抉る。
小さく喘ぎながら腕の中でビクビクと震えて跳ねるその身体は、その奥を突くたびに、確かな生命の力を強く感じられた。
ああ、市敬は、それも見越していたのかもしれない。
楓貴自身も気づいていなかったそのダメージを、こうして埋めさせてくれているのだ。
ふと、そう思った。
「市敬、愛してる」
そのひとから、返事はなくても。
その囁きに応えるように、背中に強く爪を立てられる。
繋がった部分がきゅうっと締まって、言葉の代わりに想いを伝えてくれているような。
「ふう」
掠れた声で名前を呼ばれる。
その後に続いた言葉は、吐息にすら掻き消されてしまいそうな微かなものだった。
ずっと、側に、いろよ?
逃げるなんて、赦さねえ、からな?
愛の言葉なんて、きっとそのひとは一生口にしないだろう。
だから。
その告白だけで、泣きたいぐらい幸せだ。
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