5.

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離れの駐車場に車を停める。 助手席の市敬は、熟睡しているようだった。 無理もない、散々に痛めつけられて弱っている身体を、更に酷使されたのだ。 楓貴は、そのひとを抱き上げて車から降ろす。 腕の中に大切に抱えたまま、離れの玄関を開けた。 「遅かったけど、何かあったのかよ」 あてがわれた部屋から、聖が飛び出してくる。 が、楓貴の腕の中で眠る市敬の姿を見て、慌てて口を閉じた。 楓貴は、柔らかく微笑んで見せた。 「病院であんまり眠れなかったみたいなんだ、このまま寝室に連れて行くよ」 小さめの声で言ったつもりだったけれども、腕の中の市敬がモゾモゾと動いた。 「ん…ふう」 寝惚けた声で、彼は続ける。 「帰んなよ…朝まで、抱いてろ」 ゲホッ、と楓貴はむせた。 この状況で、何を言い出すんだ、このひとは。 しかし、当の市敬は、ぎゅっと楓貴のシャツを握りしめたまま、再び眠りに落ちてしまったようで。 恐る恐る聖のほうを見ると、彼は困ったように視線を彷徨わせている。 「何の夢見てるんだろうな、イチは」 もう、夢ネタでごり押しするしかない。 聖は、なんとなく達観した瞳で、一瞬楓貴を見た。 それから、少し可笑しそうに笑って、そして。 「泊まってけば?そのひと、怒ると怖えし。言われたとおり、朝まで抱いててやんなよ」 そう言って、さっさと自分の部屋へと引き上げて行ってしまった。 どこまでわかってて、そんなことを言ったのだろうか。 なんとなく冷や汗に似た汗が吹き出してくるのを感じながら、楓貴は、しかし、聖に言われるまでもなく、市敬のおねだりに逆らえるわけもない。 諦めて今日は泊まるしかないのだ。 寝室に連れていき、ベッドの上に降ろそうとするけれども。 そのひとの手は離すまい、と楓貴のシャツを固く握っている。 「イチ、今日は泊まってくから」 一回離して? そう囁いても、全然緩む気配がない。 仕方ないので、そのまま一緒にベッドに横になる。 ギシリ、とその狭いベッドが軋んだ。 聖がどこまでわかっているのか、とか、今後どうするのか、とか、いろいろ考えなきゃいけないことがあるけれども。 全部、明日目が覚めてからでいいか、と楓貴は、眠る市敬をくるむように抱き締めた。 そのひとが腕の中にいるから、今は、それだけを感じていたい。
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