エピローグ

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「さてと、もう一人、会わせておきたいんだけど」 卓巳は今、〆切前みたいで、出てこれそうにないらしい。 「〆切って…」 「三男の卓巳は、絵本作家なんだ」 だから、卓巳に紹介するのはまた今度な。 「連絡だけは入れておくから、卓は一応社会人だし、フミじゃ頼りないと思ったら、卓のほうに連絡入れて」 あっちは同居人もきちんとしてるから、間違いない対応してくれると思うし…。 楓貴は、口の中でそう呟く。 「まあ、でも、よほどの緊急事態じゃない限り、何かあったらまずはイチに連絡だから」 ああ見えて、一番に頼りにされないと、結構拗ねてめんどくさいんだよ。 「わかってる…それに、やっぱ、あのひとが一番頼りになりそうだし」 ボソリと聖はそう答えた。 母は、あまり彼の父親について語りたがらなかったから。 どんなひとか、悪い想像ばかりしていたのだけれども。 確かに、初めて会ったときは、恐ろしく目付きが悪くて凶悪でおっかない男だとしか思えなかった。 でも。 たった二週間でも、十分にわかった。 あんなに不機嫌で口も態度も悪いのに、慕う人間がたくさんいるのが不思議でないこと。 人の意見なんて全然聞いてなさそうなのに、あの鋭い眼光で物事の本質をきちんと見抜いているのだ。 彼の采配に従えば間違いないという安心感がどこかにある。 そして、見た目や態度に反して、物凄く人情的だ。 彼の父親は、一言で言うと、凄くカッコイイ。 誇りに思えるひと。 それがわかっただけでも、会いに行ってよかったと思う。 それから、楓貴と聖は、諸々の用事を済ませた。 「じゃあ、俺は帰るけど、本当に一人で大丈夫か?」 「困ったことがあったら、すぐ呼び出せばいんだろ?」 つか、母さんがいたときだって、夜はほぼ一人だったし、そんな変わんねえから。 「あんたこそ、あいつのこと、ちゃんと面倒見てやれよな」 聖は、少し悪い顔をした。 「ちゃんと毎晩一緒に寝てやれよな、もう俺に遠慮しなくていーんだから」 しれっとそんなことを言って、楓貴をむせさせる。 一体聖はどこまでわかっているのか。 その疑問は、返事が怖くて絶対に聞けないけれども。 楓貴は、帰路につきながら、そう思って、小さくため息をついた。 fin. 2019.03.01
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