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聖は、市敬の寝起きしている離れの空いている部屋に寝泊まりすることになった。 学校への欠席連絡等、細々とした事務手続は楓貴が概ねこなした。 しばらくのお試し期間の後、そのまま市敬と住むことになり、転校することになるのかはまだわからないけれども。 さすがに、父と叔父が赦されざる禁断の関係にあるなんて、母親に置き去りにされて傷ついているであろう中学生に知られるわけにはいかないだろうから、聖が来て以来、楓貴は離れに出入りしていない。 楓貴は我知らずため息を吐く。 やっと手に入れたと思ったそのひとが、急にまた手の届かないひとになってしまった気がする。 市敬がそのことをどう思っているのかは全くわからない。 彼は、息子が自分の家にいようがいまいが、会社では全く様子が変わらない。 相変わらず不機嫌そうに、唇の端に煙草を挟んで書類を睨んでいる。 その口から煙草を抜き取って、貪るようにキスしたい。 そんな不謹慎なことを考えてしまう自分に、彼は再びため息をついた。 「おい」 声をかけられて、ハッとした。 気づいたら、市敬がその鋭い眼光で彼を睨んでいる。 「ため息ばっかついてんじゃねぇ、辛気臭ぇな」 「ごめん、思うような金額の見積もりが出てこなくて」 楓貴は思わず、そのため息を仕事のせいにして誤魔化した。 そのひととの関係は、市敬の孤独に楓貴がつけこんだだけにすぎない。 息子という最も愛すべき存在が側にいるならば、楓貴はもう用無しなのかもしれない。 そう思って、三度(みたび)ため息をつきそうになって。 慌てて呑み込む。 「ふう」 市敬に呼ばれる。 これは怒鳴られるか、と思った楓貴はそっと顔を上げたが。 そのひとは、煙草を灰皿に押しつけたところだった。 唇を尖らせて顎をしゃくるのは、キスの合図だ。 がっつきそうになるのを堪えて、その煙草の香りのする唇をゆっくりねっとり堪能する。 「…聖がいるから離れに来ねぇのか?」 甘い水音を立てて離れた、唾液に濡れた市敬の唇を名残惜しげに指で拭うと、彼はその唇でそんなことを言った。 当たり前だ。 いくら寝室は別でも、あんな激しく軋むベッドの音で、多感な年頃の中学生男子が、何をしているのか気づかないわけがない。 そもそも、聖がいるなら、楓貴は必要ないのではないか。 そう言いそうになるのを堪えて、楓貴は曖昧に笑う。 「聖はイチのこと父親だって認めてくれそう?」
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