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「さあ?あいつ、夜も部屋に閉じ籠ってて顔合わせねぇし」
市敬は、ほんの少しさみしそうな顔をした。
「何の記憶もねぇ頃に離れちまったからな…あんぐれぇの歳の頃は父親だってウザかったわけだし、知らねえオッサンなんかもっとうぜぇだろ、そんなモンじゃね?」
離れているのもさみしいけれど。
一緒にいるのに心が通わないのは、もっとさみしいのかもしれない。
弟たちには彼なりの愛情表現を惜しまない市敬も、突然大きくなって現れた息子には、愛情をどう表現していいのかわからないのだ。
だから、彼らしくもなく、楓貴に甘えたがっている。
少し精神的にまいっているのだ。
そう気づいて、楓貴は心のどこかで喜ぶ自分を、浅ましいと自嘲する。
「明日は休みだろ?バイクで聖をどこか連れてってやれば?」
あの年頃の男子なら、バイク喜ぶんじゃない?
楓貴はそう提案して、そして。
だから、今夜は接待だから遅くなるって聖に連絡入れて?
いいアイデア出した俺を接待してよ、イチ。
「ああ?何言ってやがる」
チッと舌打ちした市敬は、不機嫌そうにそう吐き捨てたけれども。
「お前が俺を接待すんだよ、ソコ間違うんじゃねぇ」
聖の前から連れ去ることを、そう言って許してくれたのだ。
「俺に接待させたら、バイクに乗るのに支障ない程度の接待で済むか自信ないよ、イチ」
それでもいいの?
「お前程度にそこまでやられるほど、んなヤワじゃねぇ」
フン、と鼻を鳴らして突っ張る市敬が可愛すぎて、今すぐにでもその言葉を撤回するまで泣かせたくなって困る。
「そこまで言うなら、遠慮しないからな…腕によりをかけて接待するよ」
覚悟しといて?
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