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伝えられなかった恋の感情だとか、傷つけてしまった友人に謝ることができなかっただとか、学力が足りないからといって行きたい高校を諦めてしまったことだとか、その内容は人によって違えど、皆が何かしらの後悔を抱えている。
そして、それは自分も例外ではなかった。
あの時、3年前のあの夏の日。
夜空に咲いた光の花の下で俺にばれないようにと静かに涙を流していたアイツの手を握り、離す事がなかったのなら。
俺の隣で肩を震わせていたアイツの手を強く握りしめていたのなら、今はもっと違った日々を送ることになっていたのかもしれない。
もう何度となく考えていたことだ。
あの時、アイツの手を離してしまい、アイツを引き止めることのできなかった自分を今まで何度となく責めてきた。
今もはっきりと覚えている。
あの日の夏の暑さも、背を伝う粘っこい汗の感覚も、アイツがつけていた制汗剤の甘ったるい香りも、何一つ忘れることなく覚えている。いや、覚えているというより、俺は何一つとして忘れられずにいる。
そうした記憶の一つ一つにとらわれて、俺は今も、あの暑かった夏から一歩たりとも前に進めずにいる。
「ねぇ、りょう君」
頭の奥で彼女の声がする。
「私たち、また……」
今も褪せることなく、あの時と同じ質のままで、鼻の詰まったような少しくぐもった高い彼女の声が今も脳裏に染み付いて落ちてくれやしない。
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