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正直もう少し話していたかったけれど、彼女は自分の後ろに並んでいた人たちに迷惑をかけることを気にして、俺からスタンプカードを受け取るなり「ではまた」と言って去って行ってしまった。
面倒な仕事を片付けて家に帰ると、家の前の道路で再び三人と遭遇した。
「「出たな!」」
そう言いながら和志と彰人が俺を指差す。二人の左手にはグローブがはめられており、和志は右手に野球ボールを持っていた。
「なんだ。お前たち野球やってんのか」
「そうだぞ。お前みたいな引きこもりと違って俺たちはスポーツマンだからな」
自慢げに和志が言った。
「引きこもりなのは否定しないけれど、俺も一応はスポーツマンだぞ」
「えっと…りょうさん?はなんのスポーツをやっているんですか?」
和志と彰人のキャッチボールを見守っていた彼女が俺の名前を呼んで聞いたきた。
「あれ、俺の名前…」
「あぁいや。お婆ちゃんがりょうちゃんと呼んでいましたし、お友達もあなたのことをりょうくんと呼んでいたので」
少しオロオロとしながら彼女が弁明のように語った。その様子が可笑しくて、可愛らしくて、俺は思わず小さく笑ってしまった。
「さんはあまり好きじゃないな」
「え?」
「名前の呼び方。さん付けはあまり好きじゃない」
俺がそう言うと、彼女は両手を指の腹同士で軽く合わせ、少し顔を赤くして言った。
「じゃあ…りょうくんで」
思わず視線を逸らしてしまった。
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