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彼女が居なくなって最初の夜。俺は夕焼け空を眺めながら涙を流した。昨日と同じ場所。初めて彼女と会った場所で、境内の階段に腰を下ろして涙を流した。
大切なものは失ってから気づくものだという吐き気のする言葉が間違ってなどいなかったのだと、俺は身をもって感じた。
空に広がり始める暗い青色。藍色。群青色。
でも、それはまだ深い色には染まり切らない夏の夜空。
それは、多くを隠してしまうものであり、見えるべきものを見えないようにしてしまう卑しいものだ。
もしも昨日、この空に広がる群青色がなかったのだとしたら、俺は彼女にかけるべき言葉を違えずに済んだのだろうか。
取るべき行動を違えずに済んだのだろうか。
彼女の手を離さずにいられたのだろうか。
そうなのだとしたら、俺はもうお前の姿なんか見たくない。
いなくなれ、群青。
お前さえいなければ、俺は後悔なんかしなかった。
姿を現した一番星に見られないよう、俺は顔を伏せて静かに泣いた。
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