第1幕:また、同じ夢を見ていた

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 俺が知っているのは彼女が周りの人間からけーちゃんと呼ばれていること。  女の子らしく髪の毛を伸ばしていて、それと対照であるかのように同年代の女の子と比べて背が高いこと。  聞いている側が恥ずかしさでむず痒くなるほどに言葉遣いが丁寧であること。  物静かで、だけど感情豊かであること。  ものすごく大人びていて、俺の知らないことをたくさん知っていること。  そして、鼻が詰まったような少しくぐもった高い声をしていたということぐらいだ。  好きだったという感情を抱いていた割には、俺はアイツのことをその程度しか知らない。アイツの表面上の事実だけしか知らない。アイツが何を考えていて、何を望んでいたのか俺は知らない。 「高校3年にもなって何言ってんだよ」  自分以外は誰もいない部屋に、俺自身の重ったるい低い声が響いた。  俺も随分と変わってしまった。身長も伸びて、あの頃に比べて声も低くなった。けれど、俺の中のアイツは今も変わらない。 「今の俺を見たら、アイツは何ていうかな」  はははという乾いた声が口から溢れた。  今年もまた、この季節が来てしまった。  忌々しくも愛おしい、ひどく汗ばむ季節が来てしまった。     
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