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今日の会社に来るまで、来てからの流れを思い返していると、右斜め前の一人が僕に話しかけてきた。
「今日歩いてきたんでしょ?車買わないのかい?」
またこの話だ。
社会人になってからもうかれこれ数十回は言われたような気がする。
「今年度は買わないです」
なるべく平坦に聞こえるように、しかし、無機質にならないように調節した返事をした。
朝の挨拶以降声を出していなかった僕の喉は驚いていたようだった。
様々な人からすれば1回目、多くて2回目の質問でも、同じような質問を複数人にやられると、どうしても話題として飽きてくる。
そして、何回も聞かれて答えている割に、どうもしっくりくる回答が見当たらない。
最近僕の中での流行は、「買うつもりがない」ことをしっかり表明することだ。
そうすれば、二度聞かれることはないだろう、と思い込んでいるからである。
この回答はまだ4回しか使っていない。
といっても、もう聞かれるのが面倒なので、秋くらいには購入するつもりでいる。
奨学金の返済があって正直そんな買い物をしている場合でもないのだが。
車の話題に移る。この昼食ではよく、車の話題になる。
車を大学にいる間に乗っていなかった、興味も持っていなかった僕には会話の内容が理解できない。
僕の昼食の悩みはまさにこれで、上司などの年上の人たちとの共通の話題がないことだ。
それでも、先輩や上司の方々はあの人からもらえば、などと気を遣って話を振ってくれる。
気づいたら「軽トラ買えば?」と言われるトリッキーな流れになったこともある。
あの時は上手く言葉を返すことができていたのだろうか。
包装から取り出した一切れのサンドイッチを口に入れる。
薄っぺらい積み重ねられたレタスを噛み砕く。
重心を崩した具が、パン生地からはみ出る。
調整しながら齧りつき、口の中に運ぶ。
どう考えても僕で作った方が安く済むはずのサンドイッチを、丁寧に食べる。
シュークリームといい、サンドイッチといい、手軽なようで手軽じゃない食べ物だと思う。
腹にたまらないことは経験上わかっているので、いつもよりも多めに咀嚼する。
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