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私はいったい、何を間違えたのだろう。
何になったのだろう。
彼女が部屋を去って行く音がする。
それが機械に伝わって、水中をぷくぷくと揺らす。
――待ってくれ
――最後に教えてくれないか。
部屋に響いた機械音に、彼女が立ち止まりパソコンの画面を見た。手を伸ばしても、届かない場所で。
――私は、人間だろうか?
私は、私ではない何かになりたかった。
美しいものになりたかった。
君のように美しい人間に。
「あなたは人間を捨てたのです」
もしかしたら私は、彼女を愛していたのかもしれない。
今となってはもう、触れることも出来ない彼女を。
私は、私を捨てたのだ。
ただ他の何かになりたくて。
扉が閉まる瞬間、唸るような音がした。
聞こえるはずのない、私の声がした。
『 脳 』 完結
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