ダイダイ色の街

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「何言ってるんですかー!絵がうまい人はいっぱいいますよ、でも絵をかいてお金がもらえる人はほんの一握りです。凄いですよ。」 市来君は優しい物腰華奢な身体付きなのに真っ直ぐな視線は凄く野生的だ。愛梨は嬉しかった。自分を認めてもらえた気がした。 「そんな風に言ってもらえるとなんだか救われますよね…市来君みたいにワールドワイドで物書きされているなんて…本当私には夢の様な才能だし…まぁ…私は文章はてんでだめですけど…」 「えーハハハハハハ。俺は絵が全く描けないんですよ!気が合いますね!そうだ、もし良かったら今度日本のファッション誌でコラム書くから挿絵お願いして良いですか?台北のラフな街並みの絵なんですけど…」 「え?私でよかったら本当喜んで!これから生で観た街並みならイメージも湧きますし!あ…スケッチブック持って来れば良かった…あ、でも大丈夫です!あ…でも私の絵ミタコト…ありますか?」愛梨は突然の申し出にドギマギした。 「ありますよ…まだ結婚したての時に代官山のカフェで個展されてましたよね…あの時たまたまカフェに入ってね…ふらっと奥さんの絵をミタんです。奇遇でしたよー作家さんの写真と名前をみて…あれ?この前結婚式に行った時の新婦さんじゃない!!ってね!」 愛梨と市来君二人は見つめ合いながらケラケラ笑った。 「ママ何笑ってるの?何か楽しい事あったの?」娘は不思議そうに愛梨をのぞきこんだ。 「ママ市来君にお仕事もらっちゃったー!ママの絵雑誌に載るかもよー」 「えー凄い!」 愛梨は娘を軽く抱きしめて又市来君と見つめあった。身体と心がじんわり熱くなった…。 日本の比較的有名な女性誌が台湾の特集をするので台北に在住の日本人と言う目線で見開き2ページのエッセイを市来君が担当する。同じ雑誌に毎月コラムを描いているのだけれど…今回は少し広いスペースで文章を書くので女性誌ならではの柔らかい挿絵がほしいということになり…その挿絵を愛梨が担当するのだ。昨日までみていた台北の街を愛梨は脳裏に蘇らせた。思いだそうとすればそこには市来君の優しくて真っ直ぐな視線ばかりが湧いてきて又心はジュンとした…。
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