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数日後市来君と飲んだ夫が帰って来た。愛梨は、腹の中とは真逆の笑顔で夫に市来君の近況を聞いた。
「元気だったぞーお前の絵の事褒めてたよ、もっと色々仕事増やせば良いのに…ってな、後なんか前付き合ってた台湾人の女と別れたらしい。」えっ?愛梨は夫にお願いした…いや、気づいたらお願いしていた。
「私一人旅がしてみたいの…一泊二日で構わないから…」
家族旅行の時は桃園空港をつかったけど、今回は街中の松山空港を利用する。割に小さい空港で愛梨の緊張はほぐれた。市来君に会いたくて台湾に来たくせに、台湾に行きたかったから市来君にも会える…そんな言い訳をまだ自分にしている。一泊旅行にトランクは要らない。一組の着替えとスケッチブック色鉛筆色。確かに男を追いかけて来たわりには荷物は色気が無かった。
チェックインの3時まではまだ時間がある。リュックサック一つの愛梨は思う存分台北の街中を散歩。気持ち良い場所を見つけて地図も見ずにただなんとなく歩き、疲れたら座る。又歩いて描きたい風景があればスケッチをする。たまに時計をみる。自然があれば深呼吸して目があった人には「ニーハオ」って挨拶。子供に手をふって。たまにスマホで写真を撮った。…こんな事独身時代は仕事を兼ねた日々の時間だったのに、いつの間にか出来て無かった。安定した生活は素晴らしい。娘を産めたのは至上の喜びだ。それを味う為に失った時間は久しぶりにこの台湾で蘇った。
言葉も文化もよくわかって無いのに何故か懐かしいこの国だからそう出来るのなら、やはり市来君。そしてここ台湾に誘惑された。優しくて暖かいダイダイ色の街に。2-2-8和平公園をスケッチしながら愛梨は色鉛筆で心に写った色を描いていた。
「良かったらその絵僕に譲ってもらえませんか?」
え?日本語?驚いて振り返ると、そこには市来君が微笑んでいた。よくわからないけど愛梨は涙が出た。嬉しかった。会いたかった。恋しかった。優しく市来君は愛梨を抱きしめた。二人の時間が1つになった。
「もしかしてここにいるかも…って思って迎えに来たよ。夜は夜市に行きたいって言ってたから…これから飲茶の美味しいレストランに行きませんか?お昼ご飯たべよう。」
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