ダイダイ色の街

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龍山寺は台北でも古くて格式のある寺なのだが、そのまわりは下町の雰囲気でもあるし、治安が悪い。愛梨はそんなこの場所が大好きだ。愛梨は吉原からほど近い三ノ輪の出身で色街やドヤ街下町のカオスと育って来たのでなんだか自分の地元と同じ匂いがする龍山寺周辺がしっくりきた。龍山寺の屋根がHOTELの部屋からみれる龍山HOTELに15時30分にチェックイン。 「じゃあ俺は家に車置いてくるから5時にHOTELのロビーで待っててね。」市来君は愛梨の手を握って微笑んだ。チェックインは市来君が一緒に済ませてくれた。去年家族で泊まったそこそこ良いHOTELのフロントは英語はもちろん日本語も通じたのをなんとなく思い出した。娘や夫の顔も目に脳裏に浮かんだけど不思議と自分に罪悪感は感じ無かった。 「あのね…愛梨さんと沢山話したい、一緒に少しでもいたいから俺隣の部屋に泊まるから…」 チェックインした時に話が長いと思ったら鍵が2つ出てきたので驚いてぼーっとしていたら… 市来君は優しい笑顔で愛梨にそう投げかけた。 「わかった…」そう答えた愛梨の心には、娘も夫も居なくなっていた。自分だけになっている。(恋は盲目)我何者…それすら忘れてしまうのだ。 HOTELの部屋は龍山寺の真裏で部屋の窓からはお寺の屋根が見える…部屋と窓からみえる寺の屋根…その構図が素晴らしかった。愛梨は夢中でスケッチをはじめた。ダイダイ色の屋根のお寺は青い空に溶けていた…いや愛梨が恋に溶けているのか。スケッチしながら愛梨はこの空間を使って自分のとろけた心臓を鉛筆に込めた。気がつくと時計は4時半になっていた。 いかんいかん愛梨は慌てて身体だけシャワーを浴びて汗を流した。メイクと髪を少し直して着ていたシャツと下着を手洗いして部屋にほした。きっと明日の朝には乾くだろう。時間ギリギリで愛梨はロビーに降りた。 ロビーにはすでに市来君が待っていて愛梨を探してキョロキョロしていた。 「ごめんなさい。部屋の窓からの景色が素敵でスケッチしてたら時間忘れちゃって…」 「大丈夫大丈夫俺が早く来すぎてソワソワしてただけだからぜんぜんですよ!逆にスケッチ中途半端になってない?大丈夫?」にこりとして愛梨は首を縦にふった。どちらとも無く二人は手を繋いだ。龍山寺の徒歩圏内には夜市が2つあるので…まずは少し歩く華西街観光夜市に、向った。
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