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歪な愛の結末
それは、春先の出来事だった。
高校生になってすぐの春の日。
青春の一ページ目となる入学式の日。
僕は恋をした。
学校見学と入試、それから合格発表。
今まで3往復しか使っていない道を、僕は学校に行くために歩いていた。
傍に桜の木が並ぶ川沿いの小道。
人なんて殆ど通っておらず、民家の陰に隠れて日も当たらない。
そんな、美しさと寂しさを兼ね備えた道を歩いていると、僕の正面から一人の女性が歩いてきた。
腰まであるかないかの綺麗な黒髪が自然と僕の目を惹く。
その女性は灰色のレディーススーツをぴっちりと着こなしており、その顔には緊張の色が浮かんでいた。
多分、彼女は新卒社会人だ。
彼女は僕とすれ違う際、僕の顔を見て一瞬だけ驚いた顔をした後、微笑んだ。
僕が彼女に恋をしたのは、その時に見た顔が本当に美しく、見惚れたからだ。
恋の動機にしては乏しいのかもしれない。ありふれた動機なのかもしれない。
それでも、僕は確かにその女性に恋をした。
それから毎朝、僕は学校に向かう途中で彼女とすれ違った。
桜が散った後も。暑い季節も。寒い季節も。再び桜が咲いた後も。
僕はその道を通る時、必ず彼女とすれ違った。
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