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大人の味
同じ会社に勤める老川成美(おいかわなるみ)と産方幼子(うぶかたようこ)は、揃って地元の成人式に参加しました。老川は皆と同じく化粧をして振袖を着ましたが、産方は一人だけ化粧せずにスーツ姿でした。成人式終了後、老川は産方と居合わせた男数人を誘って、居酒屋に飲み会に行きました。産方以外は、酒類や酒の肴的なものを注文しましたが、産方はソフトドリンクや菓子類を注文しました。産方は、男に興味がありませんでしたが、年齢不相応の童顔で「かわいい」とちやほやされました。一方の老川は、色気を振りまきましたが、年齢不相応の老顔だったため、男の気を引くことができませんでした。老川は、男の気を引けなかった悔しさに加え、色気を振りまかなくても男を惹きつける、清純無垢な魅力のある産方に激しい妬みを覚えました。飲み会はそのまま終了し、その後両者とも恋愛関係に発展することはありませんでした。老川の怒りは凄まじく、夜明けまで大黒摩季の「夏は来る」を一人カラオケで熱唱し続け、特に「選ばれるのは、あぁ結局、何もできないお嬢様」と「残されるのは、あぁ結局、何でも知ってる女王様」の歌詞には怨念がこもっていました。
翌日、老川は産方にこう言いました。
老川「昨日の成人式どうだった?」
産方「まあ、あんなもんかな。」
老川「何言ってんの、全然だめじゃない。女で成人式にスーツ着てくる人なんてあんただけだよ。みんな、振袖で着飾ってたでしょ。それに飲み会でミルクやココアって、あり得ないでしょ。あんたももう二十歳なんだから、お酒くらい飲まなきゃだめよ。」
産方「成人式って、大人の仲間入りする行事でしょ。大人になるっていうのは、別に着飾ることじゃないんじゃないかな。外見をどうこうするより、中身が大事だと思うけど。そもそも、成人式自体が要らないと思うんだよね。成人式に参加しようかしまいが、20歳になろうがなるまいが、大人たるにふさわしい人間に成長したか否かが問題なんじゃないかな。それに私、お酒好きじゃないんだよね。成人したからって、お酒飲まなきゃいけない決まりはないでしょ。あくまでも、二十歳になったらお酒を飲んでもいい、ってことであって、飲む義務はないはず。」
幼少期から大人になろうと背伸びし、高校時代から飲酒している老川にとって、この主張は不愉快でしたが、反論できないのでそのまま会話を続けました。」
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