ひみつの、ろじうらの

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 薄暗い路地を言われるがままに歩いていく。  ここは、入口からずっと気持ちが悪く居心地も悪い。  壁を這うかたつむりに、道の片隅で蠢くだんごむしたちにいちいちびくついている。  なんでこんなところを歩いているんだろうと、ふと自分に問い掛けもするけれど、私にはちゃんとした目的があるのだ。  所謂都市伝説や巷の噂のようなものだけれど、そこを訪れた人が結婚して子どももできるという、パワースポットみたいなものだ。  そこを訪れたという先輩は、色恋沙汰とは縁遠いお局様とまで影で呼ばれていたような存在なのに。  3年前に突如として寿退社。年齢も年齢なので、半ば諦めていた妊娠もわかったらしい。  今の職場で気がつけば最年長で、きっと影でお局様と呼ばれているであろう私がそろそろ結婚を焦っている頃だろうと、態々先輩の方から連絡をしてきたのだ。  確かに面倒見は悪くない人だったけど、半分以上旦那と妊娠して女の幸せを掴みましたな自慢話をしたかったのは明らかだった。  適当な相づちを打っていたら、いいとこがあるのよと声を小さくして言ってきたのだ。  ざわざわした喫茶店で、誰も私たちの話なんて聞いていないだろうけど、それでもなお他の人には内緒だよと言わんばかりにであった。
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