迷宮洞窟

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 それは私が小学校六年の夏のことでした。  丁度お盆の真っ最中で親しい友人が家族旅行や親戚の家に行ってしまい、私は一人地元で退屈を持て余していたんです。  とは言え、夏休みに子供が家でじっとしている訳がありません。  ラジオ体操が終わると当ても無いのに自転車を走らせ、街をぐるりと一周し、丁度迷宮洞窟の近くにある大きな溜池まで来ました。  ルアーフィッシングブームだった当時、そこは釣りの穴場になっていて、昼間に行けば知ってる同級生の一人や二人は必ずいるような場所だったんです。  そして私の思惑通り、野球帽を被り釣り糸を垂らす二人の姿がありました。  名前はケンちゃんとタケ君といい、クラスは違いましたが同学年でたまにサッカーやドッジボールをする時に顔を合わせる程度の知り合いでした。 「あ、お前三組の、どうしたん? 一人?」  二人とも同じように暇を持て余していたらしく、この日から数日間、私は彼らと行動を共にするようになったんです。  子供の順応性というのは今思えば驚くようなスピードを持っていると感じます。まるでいつも一緒の親友のように彼らと日が暮れるまで遊んでいましたから。  そうしている内に夏休みも終わりに近づき、あれは新学期が間近に迫った八月の二十九日。私達はその日も昼から溜池に集まり釣りをしていました。  しかし少し遅めの酷暑となったこの日、池の魚もさすがに弱っていたのか針には一匹も食いつきません。退屈はいつの間にか大きな欠伸に変わり、小一時間が経過した時、 「今日はもう釣り止めねぇ? 多分一匹も釣れねーよ。何か別の事しようぜ」  それを言い出したのはタケ君だったと思います。 「別に良いけど……今日は学校のプールも休みだし行くとこが無いよ?」 「なぁなぁ、じゃあさ……あそこ行ってみねぇ? 迷宮洞窟!」
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