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二人で、あーだこーだ言いながら選んでいる若いカップルを見ると、なんだか羨ましくなってしまう。
私も、いい歳だもの。
私が民野課長とのそうした姿を想像したことは、一度や二度ではない。
でもそれは叶わぬ夢。
だから私はいつも一人でそれを買いに行く。
コンビニでも売ってるけど、品揃えが少ないのと、どうしても人目があるので、私は苦手だ。
だから買うのはいつも、わざわざ郊外にあっていつも閑散としている“ドラッグストア剛力”と決めている。
ここなら会社の人に見つかることも少ないし、店員もつまらなそうに働いている年配の女性ばかりで、私がこれを買っても、誰も声をかけてくることもない。
昔、何気なく入った新しいホームセンターの棚の前で躊躇していたら、若い店員に捕まってしまって恥ずかしい目にあったことがある。
『それ、新商品なんです。凄いですよぉ、それ。あ、そっちは若い子向けで、ある程度年齢のいってる場合はこっちの方が…。あ、今お姉さんが持ってるこっちのタイプだと、年齢問わずにイケますねー。これだと、もうビンビンですね。正に、“まっしぐら”ですっ!」
私は恥ずかしくなって、何も買わずに店を飛び出した。
それ以来そこのお店には行っていない。
めんどくさそうに働く店員さんばかりの、今のこのドラックストアが私には合っている。
課長から誘われた日は、大抵それからは仕事にならない。
今日も、廊下で秘密の会話を交わして以降、仕事が手に付かなかった。
早く、早く会いたい。そして思いっきり溺れたい。
早く定時にならないかな…。
いつになくソワソワしていた私の態度が、この二人の秘密の全てをぶち壊すことになるなんて、この時はまだ気づかなかった。
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